コミュニケーション COMMUNICATION
繋がることで広がる世界
~盲ろうの子どもたちの豊かな学びと
生活を目指して~

ブレイルセンスを使う盲ろう者
指点字でおしゃべり

コミュニケーションの力を育むことで、子どもが安心感や見通しをもち、人と関わり、生活そのものが豊かで拡がりのあるものになっていくことが大切です。

コミュニケーションの形成と言語獲得

言語を有してから盲ろうになった場合、経緯や障害の状態によってさまざまですが、今まで活用していたコミュニケーション手段をベースにして方法を考えていきます。たとえば、手話を使用していた聴覚障害者の方が視覚障害を併せ有した場合は、手話をベースとして、視覚障害の状態によって、弱視手話(接近手話)や触手話を活用することが考えられます。しかしながら、コミュニケーション手段をまだ獲得していない先天性の盲ろう児の場合は、人や物に名前があることを知ること、形や用途も含めて、その物の概念を育て、サインを獲得する、獲得したサインでやりとりをするといったことが必要になりますので、コミュニケーション手段の獲得には、多くの時間と継続的な働きかけを要します。
全国の特別支援学校を対象とした「盲ろう幼児児童生徒の実態調査」(平成29年度、国立特別支援教育総合研究所)によれば、主なコミュニケーション方法として、以下が挙げられました。それぞれ、回答数の多い順に記載します。
先天性の盲ろう児のコミュニケーション獲得に向けては、感情の交流や共感、やりとりや三項関係を豊かにすることが大切で、子どもとやりとりする中で、感情や思いを伝え合うこと、子ども自身が伝えたい、分かち合いたい、という気持ちを持つことがコミュニケーションの土台となります。

触手話で会話をする
幼児児童生徒の主なコミュニケーション方法
(幼児児童生徒の発信方法)
  • ①泣き声や表情
  • ②身振り
  • ③話しことば
  • ④手話
  • ⑤実物(オブジェクト・キュー)を示す
  • ⑥指文字
  • ⑦写真や絵
  • ⑧普通文字
  • その他:手や指の動き、キュード・スピーチ、指点字等
担当する教員の主なコミュニケーション方法
(幼児児童生徒の発信方法)
  • ①直接、身体に触ってガイドする
  • ②口話、話しことば
  • ③実物(オブジェクト・キュー)を示す
  • ④身振り
  • ⑤写真や絵
  • ⑥手話(触手話を含む)
  • ⑦指文字(触指文字を含む)
  • ⑧普通文字
  • その他:点字、キュード・スピーチ、指点字等
  • 発信行動につながる状況と行動
    コミュニケーションをはかる最初の段階は、子どもの「コミュニケーションの意図がない行動や変化」や「ちょっとした初期要求」を大人が読み取り、それに応じていくことによって、「意図的な行動」に変えていくことからスタートします。
    たとえば、食事で満腹になったところで、子どもが口を開かない、あるいは、スプーンから顔をそむけたときに、その意図を汲んで食事をおしまいにします。こうした繰り返しの中で、「口を開かない」「スプーンから顔をそむける」ことが「食事はおしまい」を伝える発信手段になっていきます。
    また、たとえば、大好きなハンモックに揺られ、止まったときに、子どもが、思わず身体を左右に揺する動作をしたとすると、その身体に触れ、「もっと揺すってだね」と身体を揺すったことを本人にフィードバックし、ハンモックを揺らします。このような繰り返しの働きの中で、子どもは「身体を左右に揺する」ことが「ハンモックを揺らしてほしい」の要求を伝える手段となっていきます。
  • 受信行動につながる状況と行動
    着替え、食事などの活動を予告することで、見通しと安心感が生まれ、受信が促されます。予告の合図としては、その活動で使用する実物やその一部、あるいは活動の動きを、できるだけ手を取って伝えるようにします。
    たとえば、「エプロンを身につけたら食事にする」、「エプロンを外したら食事は終わり」という予告をすることで、エプロンを身につけると食事に向けた気持ちの準備が生まれ、空腹時には早く食べたいといったようすも見られてきます。また、ブランコのロープと同じ素材のロープの切れ端を提示することで、活動の予告をすることが可能となります。
    このように、活動に使用する実物やその一部を使って予告し、受信を育むとともに、子どもの身体の一部に触れるような身振りなどで活動の動きを伝えることが予告となり、受信へとつながっていくこともあります。たとえば、「両手をとって前後に動かすこと」がブランコの予告になったり、「手で身体を擦るようにすること」が入浴の合図になったりします。
  • 双方向のコミュニケーションへ
    受信と発信は、相互に関係し合いながら、獲得されていきます。たとえば、食事場面での受信が確実になってくると、子ども自身が口を開けて、食べ物を要求する、反対に食事を終わりにしたいときは、口をそらしたり、エプロンを外そうとしたりする様子が見られてきます。これは、発信につながるものです。
    このように、活動で使用する実物やその一部を使いながら、子どもと関わる大人の間で「分かり合う」ことを増やしていくことが可能になってきます。
    また、手で身体を擦るといった入浴の予告を、子どもが要求として用いるなど、活動・動作の中での自然な動きを取り入れた身振りサインを使っての繰り返しのやりとりから、受信が発信へとつながり、双方向でのコミュニケーションにつながっていきます。

コミュニケーション手段

子ども一人ひとりのコミュニケーション手段として考えられるものは、身体の動き、しぐさ、身振り、視線、発声、音声言語、手話、指文字など、多種多様です。子どもの障害の状態、活用できる視覚や聴覚の状態によっても違ってきます。子どもたち一人ひとりの障害の状態や日常生活の様子等を把握しながら、それぞれの子どもに応じたコミュニケーション手段を見つけ出すことが大切です。
視覚や聴覚が活用できる場合には、どれくらいの距離で、どれくらいの大きさ・色なら見えるのか、どれくらいの距離で、どれくらいの大きさの声・音なら聞こえるのか、といったことを把握したうえで、教育活動や日常生活に活かしていくことができます。
身振りサインについて考えてみます。身振りサインは、活動・動作の中での自然な動きを取り入れていきます。たとえば、指で軽く唇に触れながら左右に動かす動作を「歯磨きをする」という身振りサインにしたり、ブランコのロープをもって、両手でこぐ動作を「ブランコにのる」という身振りサインにしたりといったように、実物や実物の一部と併用することで、イメージしやすく、分かりやすくなります。ただし、身振りサインは数が増えると、紛らわしくなるため、手話の単語の活用も図っていくことが考えられます。理解し、活用できる手話が増えることで、コミュニケーションの量も増えていきます。
視覚が活用できる場合は、実物から、写真や絵カードに移行し、受信・発信に使うこともできます。たとえば、何枚かのカードを提示し、その中から好きな活動を選択してもらう、反対にカードを提示し、活動に見通しを持ってもらうといった方法が考えられます。
このように、様々な手立てを用いて、コミュニケーションの量と質を高めながら、交流を図っていくことが大切です。

オブジェクトキューについて

先天性の盲ろうの子どもたちは、サインや言語によるコミュニケーションがまだ難しい子どもたちがかなりの割合を占めていますので、その子どもたちに分かる方法での提示を考えていきます。
その一つとして、活動や場所をイメージするオブジェクトキューが考えられます。オブジェクトキューは、「ある行動や活動を思い出させる実物やその一部。実際の実物からその一部に変えたり、視覚が使える子どもの場合は絵などに変えていく」
(Engelman, M.D.; Griffin, H.C & Wheeler L.; Deaf-blincness and communication: practical knoml-edge and strategies, Journal of Visual Impairment and Blindness,783-798, 1998.) と紹介されています。たとえば、給食はスプーン、図画工作はスモック、プレイルームは床と同じ素材の一部というように、子どもにとって活動や場所をイメージしやすい物を使用することで、活動の選択や予告、あるいは、活動の振り返りとして使用できます。

オブジェクトキューの一例イメージ

写真に示したオブジェクトキューは、ボードに貼り付けることで、活動をイメージするツールとしての意味合いを示したものになっています。

オブジェクトキューの活用例

また、写真のように、これらオブジェクトキューを活用して、スケジュールを提示するといった方法も考えられることです。

オブジェクトキューを使った時間割

本「コミュニケーション」については、前会長の中澤の以下の論文を参考に記載

盲ろう児のコミュニケーション方法
―分類と体系化の試みー

中澤 惠江(重複障害教育研究部) 国立特殊教育総合研究所 研究紀要 第28巻
平成13年2月 国立特殊教育総合研究所

TOPに
もどる